当事者部門

「絆ーあなたが教えてくれた事ー 」 金澤 裕香

私には、重度の障がいと医療的ケアが必要な「なお」という娘がいます。
6歳になる年に亡くなってしまいましたが、彼女は私にたくさんの事を教えてくれました。
その中で一つ、今も私を支えてくれているのは、「在宅の主治医の先生との絆」です。
今日は、人とはちょっと違う「医療的ケアが必要な娘の子育て」の中で、主治医の先生から学んだ事をお伝えします。

まず、私と先生との出会いは娘が生後半年の時、ようやく退院し、自宅に帰ろうというタイミングでした。
当時、私は娘の子育てに深い虚しさを感じていました。
なぜなら、娘を笑わせる事ができなかったからです。
絵本を読んでも、音楽を聞かせても、体遊びをしても、地蔵のように娘は表情を変えません。

今考えると、分かりやすく笑わなくても、娘なりの表現をしていたと思うのですが、当時の私にはそれをキャッチする余裕がありませんでした。
私がベッドサイドから離れても、平気そうにしているため「私がいる必要があるのだろうか…」と子育てに全く手応えのない日々を送っていました。

そんな時、退院に向けて、在宅主治医先生として、初めて先生と面会しました。
病院に訪ねてきてくれて、娘を優しく見つめる先生に、私は思わず不安をぶつけていました。

「娘が好きな事が分からないんです。どうしたら、娘の好みが分かるようになりますか?」そう私は尋ねました。

すると先生は
「お母さん、ただ抱っこすればいいんですよ。たくさん抱っこしてあげてください」と応えてくれました。

その時は正直「そんなことか…」と少しガッカリしました。

でも、縋るような気持ちで、言われるがまま、毎日暇があれば抱っこしているうちに、私自身の気持ちが安まり、不思議と不安や焦りは消えていきました。
その後、その先生とは6年間2人3脚で娘の病気と闘いました。

毎日毎日電話で話し合いながら、その日のケアを決める…
そんな献身的な先生のおかげで、娘は6歳の誕生日を迎える事ができました。
6歳2ヶ月を迎える前に、娘は亡くなりました。
娘が亡くなった時、たくさんの人が私達家族のもとを訪れて、頑張ったね・大変でしたねと声をかけてくれました。

そんな中、先生はうちの母にこう言ったそうです。
「可愛いお孫さんでしたね!おばあちゃん、幸せでしたね!」
母はその言葉にとても救われて、何度も私にその話をします。

大変だったかもしれないけど、可愛い娘に恵まれて、私達は幸せです。
そう教えてくれた先生に、私は一生かけても返せないくらい感謝しています。

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