(注)応募時に無題だった作品は、作文コンテストのテーマである「私たちの絆」をタイトルとしています
2020年夏、とある日の深夜、予定日よりも3週間ほど早く待望の第一子(男の子)が産まれてきてくれました。妊婦健診では毎回「順調!」と言われていた為、何の心配もなく出産を迎えました。我が子の大きな産声を聞いて、無事に産まれてきてくれてよかった…と感動に浸っていました。
分娩所要時間が52時間と長丁場だっただけに心身ともにクタクタ状態。今夜は安心してゆっくり眠れるな~とうとうとし始めているときのことでした。隣で寝ていた息子が微量の嘔吐をしたので看護師に報告、そのとき私は羊水を飲み込んでしまったのかな…と軽く思っていました。「洋服が汚れてしまったので赤ちゃんいったんお預かりしますね」と看護師に言われ息子は別室に移動しました。
2時間経っても戻ってこないのでどうしたのかな~と思っていると、私のところへ一人の男性が来て
「はじめまして。わたくしNICUの者です。お子さまをしばらく預からせてもらっていましたが、消化器官に何らかの異常があるように思われます。ここの病院では手術ができないので今から大学病院に搬送したいのですが…」
私は頭が真っ白になりました。事を理解できていなかったからなのか、なぜか冷静に受け答えすることができました。コロナ禍で立ち会いと面会が禁止されていたため、夫と母に連絡して、夫には急遽病院まで来てもらいました。自宅から出産した病院が近いということもありますが、普段は近場でも自転車移動をする夫が、この日は自転車に乗ることも忘れて走って駆けつけてくれました。
何も理解できていない私とは違い、夫は顔面蒼白で貧乏ゆすりをしながら指のささくれの皮をむいていました。待機時間は30分ほどあったと思いますが、その間私と夫はあまり話すことなく沈黙の時間が流れました。私は出産直後のため病院に残らなければならず、夫に一緒に救急車に乗ってもらい息子の付き添いをお願いしました。母も搬送先の大学病院に向かってくれていました。夫と母がはじめて息子を見たときには、もうすでに保育器に入っていて顔や体には色々な管がついている状態でした。
息子は搬送されてすぐに緊急手術になりました。息子がこんな事態になっている中、悔しいことに私は疲れに負けてしまい外が明るくなるまで眠ってしまっていました。夫と母は寝ずに息子の手術の付き添いをしてくれて、術後に主治医の話を聞き私に連絡してくれました。息子の病名はこの手術だけでは分かりませんでしたが、息子のお腹には人工肛門(ストーマ)が造設されました。私は人工肛門の存在やストーマという単語をはじめて知ったので、またまた頭が真っ白になりました。
私も息子と同じ病院に転院できないか頼んでみましたが、手続きに時間が掛かりもうこの時点で二日が過ぎていました。
そしてようやく息子と同じ病院に移れたのですが、ここでもすんなりとはいかず、PCR検査を受けて結果が出てからようやく息子の元へいくことができました。数日ぶりに息子に会ったときには涙が止まりませんでした。
後日、病院では面会の制限が緩和されたのですがその対象の中にNICUは入っておらず、一般病棟のみの緩和でした。息子のように未熟な小さな体で頑張っている赤ちゃんがいる病室なのだから無理はありません。頭ではわかっているのですがこの現実はすごく辛いものです。
息子は一回目の手術から1ヶ月が経たないうちに二度目の手術を受け、病理検査などもして生後2ヶ月のときにようやく診断がつき、難病だということがわかりました。一度目の手術のときは命に別状はなしと言われていましたが、今回は先生の表情や声色などからして今までとは違うことがよく伝わってきました。
夫婦で泣いて泣いて、また泣いて、これでもかというぐらい泣き尽くしました。今、振り返るとこのときが一番どん底だったかもしれません。
生後2ヶ月以降から鼻の管の卒業。清拭のみから沐浴開始など。少しずつ良い知らせが聞けるようになってきました。私の精神面もこの時期くらいから落ち着いてきました。現在息子は4ヶ月になりときどき笑うようになりました。この笑顔をどれだけ心待ちにしていたことか。息子が私と夫に笑うことを思い出させてくれました。
週に1回の面会ではなかなか息子の泣き止むコツが分からなかったり、看護師さんに抱っこされると泣き止む息子の姿をみて泣きたくなることが多かったのですが、最近は“パパとママ”を認識してくれるようになり愛おしくてたまりません。
健常児の4ヶ月の子と比べたら、成長面では大幅に差があると思いますが、息子は息子!ゆっくりでも成長してくれていることに感謝しています。子どもが難病でもこの先もずっとずっと笑いの絶えない家庭にしたいなと。
こうやって私を前向きな気持ちにしてくれたのは息子と家族です。この先たくさんの壁があると思いますが家族や周りの人に助けてもらいながら前に進んでいきたいと思います。