一般部門

「少女の願い」 長野 僚

『(私にとっては)2/5 ではなく 2/2 なんです』と先輩の方から教えてもらったんです。

彼女のお母さんからそんな話を聞いた時、正直胸が熱くなった。そうだよな、と思った。 心身が熱くなった。同時に、「当たり前ってなんだろう?」と考えさせられた。

今回の主人公は小学2年生の女の子だ。

彼女には「先天性手指裂手症」という障害がある。生まれつき右手の指が2本欠損して生まれてきた。そのことを何気なく友達に聞かれ悩むこともあるという。

そんな彼女との出会いは今年の1月。僕が主催する講演会(※現在はコミュニティ)にお母さんを説得し、自分の意思でやってきた。当時小学1年生の女の子が2時間、椅子に座っているだけでも凄いが、彼女は内容もしっかりと受け止めてくれていた。

「たすけてもらうことは、はずかしいことじゃないんだよ」

助けてもらった経験のある人はいつか必ず助ける側に回るー。だから本当に辛くなる1歩手前で(辛くなりそうだな、と感じたら)誰かに頼っていい。

彼女の心に届いた言葉は、僕が学校など各地で講演をさせていただく時、必ず伝えている ことでもある。
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『やっぱり助けてって言えなかった…』

彼女からそんな報告を受けたのは、6月のある日のこと。

どこかバツが悪そうに、少し小さな声でそう伝えてくれた。その様子がすべてを物語って いた。彼女の中に罪悪感みたいなものがあると感じた。

『(長野と)約束したのに言えなかった』

ひょっとすると怒られてしまうんじゃないか。そんな想いもあったのかもしれない。だか ら僕はゆっくりと笑顔を作ってこう続けた。 「でも僕には言えたじゃん!助けて、って」

前夜にお母さんから連絡はもらっていた。(コロナによる)一斉休校が解除され学校が始まって間もないこのタイミングで、クラスメイトから何気なく手のことを聞かれてしまい少しナーバスになっていて、長野に連絡してほしいと言われていたと。

僕は「明日はパソコンの前に待機しています」とだけ伝えた。

自分でも(いつものことだ…)と分かってはいるけれど、今回の言葉は特にイヤな気持ちになったこと。学校での出来事を家族に相談したら、家族は全員で受け止め、『全然変じゃ ないよ!』と言ってくれて嬉しかったこと。でも、『“家族”以外の人はどう思っているか分 からなかったから(長野に)相談したくなった』こと。そして、お母さんから『じゃあ長野 さんって変だと思う?』と聞かれて『全然変じゃないよ』と答えたこと。

1時間に及ぶ話の中で彼女から受け取ったのは、『自分は変なのか?』という痛烈な問いだった。自分が大切に思っている何かが否定された時、大人でも不安になる。まだ8歳になったばかりの少女がそんな不安を全身で抱えて一夜を過ごし、学校から帰って今、目の前にいる。

言うまでもなく、実際に僕と話すことを選んだのは彼女自身だ。(おやつタイムを削って でも)長野に相談してみよう、と思ってくれたことがとにかく嬉しかった。話し合いも中盤 に差し掛かった頃、どこか吹っ切れたような笑顔で『初めて長野さんに相談できてスッキリ した!』と彼女は言った。その言葉を僕は生涯忘れることはないだろう。

遡ると1月の出会い以来、僕たちは双方向の関わりを続けてきた。オフラインで関わった1・2月には当日使用したキャッチボール球にサインしてプレゼントしたし、彼女は得意な 縄跳びを自ら皆の前で披露してくれた。「もしかすると1人だけ電動車椅子に乗った長野が 右手で投げたボールであることに意味を見出したのかもしれない」とは、その場を共有した カメラマンの言葉だ。

ちなみに冒頭に紹介した『5分の2ではなく2分の2なんです』というエピソードは、彼女の母が先輩当事者から直接掛けられ、僕たちに共有してくれたものだ。無いものを嘆くよりもあるものを活かす。そんなメッセージを受け、直後には参加者全員で「普通とは?当たり前とは?見た目がちがっちゃダメなの?」をテーマにディスカッションを行った。

そんな流れを経て3月以降はすべてがオンラインに切り替わり、4月・5月はリモートで国語と算数のマンツーマン授業を実施。そして自粛期間中にやってきた彼女のバースデーにも『誕生日スペシャル授業』を企画。学校に行けない日々を逆手にとって全力でお祝いした。そんな積み重ねが“今“につながっていると思うと、すべてが尊く思える。

当初は5月で終了予定だった授業での関わりは、夏を迎えた今も不定期で続いている。それは『最後はイヤ!』と、またしても想いを伝えてくれた彼女のおかげだ。“最後”を拒んでくれた彼女に僕ができること。

それは『もういいよ^^』と笑顔で言われるその日まで、そっと見守り続けることだ。それが『何でも自分でできる私の手は全然変じゃないよ!』と教えてくれた彼女からの、“最初” のお願いなのだから。

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