当事者部門

「私たちの絆」 武本 壽子

(注)応募時に無題だった作品は、作文コンテストのテーマである「私たちの絆」をタイトルとしています

コロナの自粛後久しぶりの登校で、小4の息子の瞳はいつも以上に輝やきました。

その姿を見て、私は喜びに胸がいっぱいになりました。
人と関わることはなんと幸せなのでしょう。
学校に通えることはなんと素晴らしいのでしょう。

息子は、先天性水頭症、シャント感染の髄膜炎、脳室炎と、過酷な新生児期をNICUで過ごしました。
奇跡的に病状が落ち着き、8ヶ月の時に急変のリスクを抱えながら人工呼吸器と共に退院。
その後は、おおむね元気に過ごせています。

2020年の年始、息子は水頭症の悪化で入院し、その後もなかなか体調が安定しませんでした。
やっと落ち着いた頃、コロナによる自粛生活、緊急事態宣言で、半年ほど学校に行くことができませんでした。

そのため再び登校できた時、健康であること、世の中が新しい生活様式の中で普段の生活を取り戻しつつあることが、本当に幸せだと心の底から感じたのです。

息子は、多くの方に助けられて暮らしています。

家族はもちろん、訪問で医療を支えてくださる先生、看護師さん、薬剤師さん。
病院の先生。
在宅・移動サービスで日常のお世話を支えてくださるヘルパーさん。
学校の先生や看護師さん。
放課後デイサービスの職員さん。
他にも、相談支援、関係する業者の方、近所の方、書き切れないくらい多くの方に心を寄せていただいています。

コロナウイルスの脅威にさらされ、皆さんに支えてもらいながら無事な毎日を送れることが、なんと尊いことかと、感謝の気持ちが大きくなりました。

それと同時に、当たり前の日常の大切さを再認識しました。

現在では、学校に理解を深めてもらうことができている私たち親子ですが、入学当初から辛く苦しい思いをたくさんしてきました。

日常と違う生活を送らなくてはいけないことに違和感があり訴え続けたのですが、学校側にとっては、無理な注文をつけてくる困った保護者になってしまいました。

ペースト食は注入できません。
今は口からは食べられません。

色々な学校の決まりの中で、そこに合致しない、そして理解されない。
当時は拒絶されているように感じました。

でも通学4年目になった今では、ペースト食の注入は当たり前になり、先生が胃ろうの子どもたちに注入しています。
経口摂取と注入の併用も数は少ないけれど行われています。

私たちが切り開いた道は、ただ草を除けたけもの道かもしれない。
でも、それを必要な道として、後ろから一緒に踏みしめて歩む仲間がいる。
そして、歩きやすいように整えてくれる学校がある。
必要だと気付かれなかった道が、そうやって大きな道になる。

50年ほど前、障害児の就学免除が通例だった時代、障害のある子にも教育を!と声が上がりました。
様々な形で働きかけ、伝え続け、その結果、養護学校が義務化されました。
でも、その時には既に教育を受ける年齢を超えていた方もいらっしゃったとお聞きしています。
無情なこともあります。
そうやって、先人は必要なことを伝え続けている。
誰かのがんばりによって、私たちも救われています。

医療的ケアという言葉が使われるようになってまだ日も浅く、学校教育の中での医療的ケアへの取り組みも始まったばかりです。

息子は学校が大好きです。
学校は魅力的なところなのです。

学ぶべき時に教育を受けることは権利であるけれど、人工呼吸器が必要な息子にとって、前例のないことが多く、理解を求め続ける日々です。

見てもらい知ってもらい一緒に考えてもらう。
そんな風に過ごす中で、良い方向へ進んでいます。

現在は、医療と学校教育がうまく合わさり、新しい文化が生まれつつあるところです。
学校は医療的ケアも教育の一部だとして、懸命に努力しています。
ただ、医療と教育の間には大きな壁があり、不都合もあります。

医療的ケア児とその家族は、前例がないと言われ、思い通りにならないことが多いと感じています。
ただでさえ大変なのに、コロナ時代でさらに困難な毎日。

コロナによって当たり前が当たり前でなくなってしまった今、みんな当たり前がどんなにかけがえのないものか、心から感じていることでしょう。

きっとこれもまたきっかけです。

思い通りになる日はまだ遠いかもしれない。

それでも、私たちが抱える問題を一つひとつ丁寧に解決していく。
それが、子どもたちの豊かな選択肢につながっていきます。

前例のない道を歩む同志たちへ。

こうだったらいいのに。
それが、少しでも実現されますように。

理想は高く。

一緒にがんばりましょう。

どちらもドン底の時に、息子がお世話になった主治医に言われ、救われた言葉です。

あちこちの小さな一歩が、幸せな未来につながっていくことを信じています。

いつか、あの頃は大変だったよねと語り合いたいですね。

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