当事者部門

「私たちの絆」 太刀川 亜希子

(注)応募時に無題だった作品は、作文コンテストのテーマである「私たちの絆」をタイトルとしています

私には、50〜100万出生に1人という低発症率の難病児で、重い心身障害をもつ、昂志(たかし)という7歳の息子がいます。昂志は、毎日24時間全介助が必要な医療的ケア児です。

わが子の病気や障害を受け入れるべき母親の私ですが、心の病気の当事者だった過去があります。昂志の病気が生涯治癒しない現実を直視できず精神疾患で一時期入院した私は、可愛い盛りの昂志を写真でしか知りません。

家族と離れて社会からも孤立した経験のある私が、昂志と同じ難病児のママ友達との繋がりで、自分自身をいたわりながらの育児の第一歩を踏み出せたことを作文にします。

昂志の難病名診断後の私は、病気に直結する医師や患者を調べても、どうしたら良いのかと自問自答をしても、情報や正解に辿り着けず、手応えのない育児に心が空回りする日々を過ごしていました。当時、一握りの情報や安心できる居場所に繋がれていたら、どんなに気持ちが楽になっていたことでしょうか。

病気の子どもを守る親は人一倍情報を集め、常に危機感をもちながら、気を張って闘っているものです。一方、情報過多社会の今でも、参考になる情報や求めたい助けは、自ら行動せず待っていても来ない現実があります。

アンリーシュ日記の配信で医療的ケア児のことや育児ママの心構えを教えてもらえて、いつも励みになりますが、結局、今まで昂志と同じ難病患者との繋がりは皆無でした。

転機は突然訪れました。昂志の命を何度も救っていただいた、あおぞら診療所の前田先生が出演するNHK番組「ハートネットTV#新型コロナ子どもSOS」を視聴していた時のことです。番組終盤でテレビ画面に表示されたツイートに目が釘付けになりました。まさに昂志の病名だったからです。

「非ケトーシス型高グリシン血症という難病です。治療法がきちんとされている訳ではないので、この病気でさらにコロナなどにかかってしまった時は、不安で仕方がないです。」

私は咄嗟にリツイート。投稿者は、同じ難病の子どもを4人兄弟中2人も抱え、1人を生後3ヶ月で亡くしたママでした。彼女のブログを通じて、病気や障害、死さえもありのままの現実を受け入れて全てを否定しない生き方を知り、感動しました。

そのご縁で、昂志と同じ難病児のママグループラインに招待されることに。全国でたった7人のママ友達と言葉や写真、動画でやりとりを重ねていくうちに、主人に任せがちな育児と再度向き合う勇気をもらいました。

昂志と言葉で意思疎通できなくても、無限大な子どもの可能性に気づかされます。年上の患児の成長を知ることで昂志が辿る経過をイメージでき、皆同じ立場なので私独りで抱えていた不安もママ友達は経験済みなことも。

主治医の診察で不安はある程度解消されますが、先が見えない怖さは残ります。投薬や痙攣発作時対応、医療用具など、ママ友達との情報共有でも前向きに闘う力となりました。

子どもに重い病気や障害があると、片方の親は仕事を辞めざるを得ないのが現状です。退院後の私は、あえて息子と離れて復職する決意でワーキングママに。主人が離職して在宅看護という夫婦逆転生活は今に至ります。

昂志の就学が落ち着く今秋、主人は介護ヘルパー資格を取得。昂志の介助や特別支援学校の送迎と併行し、障害児支援や高齢者介護の仕事を始め、充実した毎日を送っています。

昂志が生涯背負う障害を知った時は、こんなにたくましい家族の姿を想像できませんでした。終わりのない闘いを家族の誰も欠けずに続けていくことが、今後の家族目標です。

同じ難病児のママ友達が手を差し伸べ、彼女らに何かあった時は助け合う間柄に、家族同然の絆を感じています。SNSのおかげで、同じ時間、同じ境遇、同じ想いを共有する運命共同体のような人々に出会い、一緒の心持ちで病気の子どもを育てていける支援が身近にあることに深く感謝しています。

同じ病気でも症状や置かれる環境は人それぞれだから一概には言えませんが、コロナ時代の今、子どもの病気や障害に向き合えていなくても、全員が全員強い母親になれなくても、当事者の心の声が誰かの助けになると信じて、私たちの絆を伝えたいと思います。

コロナ禍で、人と人、人と地域の繋がりの絆の大切さが再認識され、私たちは絆無しに独りで生きて行けないことを痛感しました。

絆は自由を妨げる束縛の一面もあって、私たちの絆が糸のようなもので繋がって実際に見えたのなら、人はどんなに安心でどんなに不安なのかと考えることがあります。将来、私たち親が年老いて、今の介助や医療的ケアができなくなっても、子どもの命を守り続けていけるのか、不安を感じてもいます。

健常者と同様、病気や障害の当事者と家族、その支援に関わる人々が、笑顔で暮らせるように、文字通り節度ある介入の"お節介"な絆で強く結び合う未来を夢見ています。

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