当事者部門

「わたしたちの絆 〜コロナ時代の今、あなたに教えてもらったこと〜」 佐藤 奈津

いつの日からか息子の注入ができなくなりました。お腹を空かせて「うーうー」と泣く息子の声に耳を塞ぎ、おむつ交換もできなくなっていきました。そして、それはコロナ渦で自粛生活が始まり3か月ほど経ったある日、突然自宅の台所で気を失い倒れました。「終わった…」。鬱病の上、自律神経失調症の私にはこの子は育てられない。だから…まだ少しでも我が子への愛情が残されているうちに、息子を連れてどこか遠くに行こう。誰にも知られないところまで。

息子の疾患が判ったのは妊娠中のこと。医師から告げられたのは、染色体異常の『13トリソミー』という聞き慣れない病名でした。しかも「赤ちゃんは生まれたら自力ではほとんど生きられない。奇跡的に生きられたとしても、5、6歳までということは難しい。」との残酷な告知でした。一気に地の底に突き落とされたような感覚の中、インターネットや本で調べては私の心は深くえぐられるばかりで何の解決にもなりませんでした。それからはただ静かにすべてを受け入れることしかできませんでした。

そして、息子は清々しい朝の光が差し込む中、私たちの元にやってきてくれました。儚くも一生懸命な産声と共に。心から愛おしい…それが息子との出逢いでした。

覚悟していた通り、息子には沢山の障害がありました。しかしそれらを受け入れるのに私たち夫婦にそれほど時間は必要はありませんでした。それよりも一日も早く息子を家に連れて帰りたい一心で毎日NICUに通い、必死に医療的ケアの手技を学び、在宅生活の準備を始めました。

そうして出生から一ヶ月半、慌ただしく始まった在宅生活は、毎日が息子の命との闘いで緊張の連続でした。気管軟化症のため一日に何度も息止め発作を起こしてはサチュレーションを下げ、顔色が真っ黒になっていく息子…一時たりとも目を離せる状態ではありませんでした。5分近くも呼吸が止まって救急車を呼んだことも。もう限界でした。医師の勧めもあり、これ以上息子が苦しまないように気管切開をして人工呼吸器を付ける決意をしました。

呼吸器を付けるようになってからの息子は、以前とは格段に安定して過ごせるようになりました。私自身も医療的ケアに少しずつ慣れていき、息子との毎日に余裕が持てるようになっていきました。息子が側に居る生活はそれだけで幸せでした。

しかし、その幸福と反比例するように、徐々に私の心に綻びが生まれていったのです。家の中をいう閉ざされた空間の中で…。孤独、疎外感、不安、悲しみ、妬み、諦め…どこにも行き場のない感情は私を押し潰し、私はどんどん自分の殻に閉じこもるようになっていき、あんなに愛おしいかった息子のケアさえ億劫になっていきました。やがてカーテンが開けられなくなり、自分のことすらできなくなっていったのです。それは鬱の影…その闇の中に吸い込まれてくように寝込むようになっていきました。長い間そんな自分と向き合っていたある日、突然自宅で気を失い倒れたのです。検査の結果は自律神経失調症。息子は医師から告げられていた寿命を遥かに超えて、すでに五歳半にまで成長してくれていた頃でした。

「終わった…もう無理。私にはこの子は育てられない。誰か助けて…それとも…。」

心を閉ざし誰にも会いたくなくて訪問看護師さんさえも断るようになり、息子から目を背けるようになっていきました。そんな私にいち早く手を差し伸べて下さったのが看護師さんでした。そして市役所の方や相談員さんなど様々な方が私の相談にのって下さるようになり、ご支援いただくようになっていきました。

「一人で頑張らなくてもいいんだ…助けてくれる人がこんなにも私の側にはいる。」そのことに気付かされた時、心がふわっと温かくほっとして、支えて下さっている方々へ心から感謝の気持ちでいっぱいになりました。そして一度でも息子を連れて…とよぎってしまったあの時の自分を戒めると同時に、「こんな情けないママでごめんね。もう二度と離れないから。」と息子を抱きしめていました。

それからの私は心が徐々に軽くなっていき、サポートを頂ける方のお手をお借りしながら息子との時間をより楽しめるようになっていきました。コロナ渦の中で、相変わらず家の中での生活ですが、息子が障害を持っているから出来ない、外に出れないと嘆くのではなく出来ないのならば出来ないなりにその中で幸せを見つければいい。ほんの少しでも幸せを見つけたらそこに焦点を当てて最大限に喜びを感じる。そしてその喜びをみんなで分かち合う。その先には大きな幸せが待っている。そのことを息子から教えてもらいました。

今の私は息子と共に歩んで行ける幸せのために生かされている。あの時、「もう終わった」と思ったことも今から思えばスタートラインだったのかもしれません。今まさにこうして息子と共に生きている。それこそがわたしたちの絆なのです。

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