当事者部門

「私たちの絆」 川向 澄枝

(注)応募時に無題だった作品は、作文コンテストのテーマである「私たちの絆」をタイトルとしています

私の娘の麻由(まゆ)は、今年の6月4日に急性心不全で亡くなりました。5月19日に5歳の誕生日を迎えたばかりでした。

麻由は出産前は特に経過に異常はありませんでしたが、生後2日目に原因不明の呼吸停止を起こし、低酸素性虚血性脳症と診断され、後遺症で重度の脳障害が残り、気管切開をして24時間人工呼吸器、胃ろう、頻回の吸引、24時間のパルスオキシメーター装着など、様々 な医療機器を必要とする医療的ケア児・重症心身障害児でした。

呼吸停止後、高度な治療を受けるため出産した病院から県立こども病院のNICUへ救急搬送 されました。
「この先、麻由はどうなるんだろう、私や夫はどうすればいいんだろう」
精神的に大きなショックを受け、NICUへ面会に行く当初の数日間は不安で不安でたまりませんでした。

その当時に心の支えとなったのは、NICU の主治医の先生、受け持ちの看護師さんや病棟の 看護師さん、早期にリハビリに入ってくれた PT さんでした。

常に麻由を近くで見守ってくれて、「麻由ちゃん、お風呂のとき気持ちよさそうな表情しますね!」「麻由ちゃん、リハビリ頑張ってますね!」と、ちょっとした変化を面会時に知らせてくれて、とても嬉しかったです。

徐々に精神的に落ちついてきたタイミングで、在宅生活に必要なケアの仕方(経管栄養の取り扱いや吸引、体交など)を私や夫のペースに合わせて指導していただき、これからの在宅生活に向けた準備を負担なくサポートしていただきました。

一般病棟に転棟後は、神経科の主治医の先生や受け持ちの看護師さんはもちろんのこと、 在宅支援室の看護師さんや医療ソーシャルワーカーさんが、本格的な在宅生活の準備をと ても丁寧に、そして気持ちに寄り添ってサポートしていただきました。

病院の職員さんだけでなく、在宅用人工呼吸器メーカーの担当者さんや相談支援専門員も 入っていただき、在宅生活にあたってのよりきめ細かい準備でお世話になりました。

約10ヶ月の入院期間を経て、ようやく始まった在宅生活。
訪問看護師さんやヘルパーさんが入浴介助やケアの手伝いで入っていただきました。
「お風呂ではお花のにおいの入浴剤が好きみたいだよ」「いま手の指がちょこちょこ動いた!楽しいのかな」
と、毎日の暮らしが何気ないことで楽しめる交流ができました。

在宅生活1年後、夫の転勤で県外へ引っ越すことになり、引っ越し先でお世話になる病院の手配や役所の手続きなどがたくさんあってたいへんでした。

その時は、訪問診療の主治医の先生や相談支援専門員、役所の福祉課担当さんに引っ越し 先でもスムーズに在宅生活が送れるように段取りを組んでいただき、とても助かりました。

新天地での訪問看護師さんや主治医の先生も、麻由のことをいつもきめ細かく見てくれて なかなか外出が難しい麻由のおうちでの生活が「おうちでも楽しめる」生活を作ってくれ ました。

麻由はお風呂が大好きなので、訪問入浴さんにも入っていただくことになり、気持ち良い 表情をする麻由を見るのが大好きでした。

居宅訪問型児童発達支援も利用するようになり、PTさんと保育士さんが定期的に家でリハ ビリと遊びの時間で来てくれるようになり、ますます麻由の楽しみが増えました。
リハビリと遊びだけでなく在宅生活の相談にも乗っていただき、助けられました。

最も大きい絆は、引っ越し先で新しくできたママ友さんです。
引っ越す前の主治医の先生からの紹介でしたが、偶然にも家が近所ですぐ行き来できる距離に住んでおり、在宅生活で「うちではこうしてるよ」「こんなところが困ってるよ」とお互いに情報交換できることがとても心強く感じました。

麻由は2年後に小学校入学の予定でしたが、特別支援学校の様子なども教えていただき麻由も小学校を楽しみにしていたと思います。

ネット上でも様々な絆が生まれました。

前開きしか着ることができない麻由のために、医療的ケア児のご家族がオーダーメイドで 前開きの肌着やカバーオールを作ってくれるお洋服屋さん、経管栄養のシリンジやチュー ブを洗浄するグッズを作ってくれるかた、どれも皆在宅生活のお世話になりました。

そして医療的ケア児の情報を発信しているアンリーシュさんです。

悩んでいること、困っていることは家だけじゃないんだ、 みんなそれぞれが持っている課題をこうやって乗り越えているんだ、と アンリーシュさんのサイトを見ていてとても励まされました。

麻由は天国に旅立ってしまいましたが、
麻由と過ごした5年間はとても多くの人に助けられ、支えられ、励まされてきたんだな、と今改めて振り返って心から感じました。

このご縁をいつまでも大切に、これからも何らかの形で医療的ケアが必要であったり障がいや病気を持っているこどもを応援できたらという思いで今回の作文コンテストに応募しました。

アンリーシュさんに感謝を込めて。

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