当事者部門

「信じるということ」 hapico

娘は先天性心疾患を持って生まれてきました。複雑な心疾患を持ってはいるけれど症状としては軽く、手術は数回しなければいけないけど、手術さえすれば学校で体育もできるようになると言われていました。

そんな娘は、生まれてから大きな声で泣いたり、笑ったり、ハイハイもしようとしたりして、とても順調に成長して心疾患があるなんて忘れてしまいそうになるくらい元気で幸せな毎日を送っていました。

転機となったのが生後7か月の時。初めての手術の時です。大手術でしたが無事に終わりました。いや、無事に終わったように思っていました。
手術の翌日、それは突然起こりました。原因不明の心停止です。なんとか心臓マッサージを行い蘇生できましたが、心臓はとても弱っており、しばらくの間は人工心肺をつけて心臓の回復を待つしかできない状態でした。

こんなに辛い思いをして頑張っている娘のそばにずっと一緒にいてあげる事もできない。私はただ祈る事しかできないことに無力感を感じて眠れない日々が続いていました。毎日、毎日、心臓は弱っていき、医師にもあと1週間しても回復しなければ人工心肺を外しますと言われていました。

私は今まで味わった事がないような絶望感に襲われていました。でも毎日祈りました。持っていくタオル全部に元気になる!と、1枚、1枚刺繍をしてICUに届けました。絶対心臓は元気になる、元気になって退院して家族みんなで過ごす、紙にこうなって欲しいと思う事いっぱい書き出しました。

こうしていないと、よからぬ事が頭に浮かんでしまいそうになるので、それを無理矢理追い払うかのように書き出して毎日、何度も何度も自分に言い聞かせるように声に出して読み上げていました。そして、1週間が経つギリギリの所で奇跡がおきました。娘の心臓は元気に動き出したのです。娘の生命力が勝ったのです。

ですがその後しばらくして重い低酸素脳症になっていることが分かりました。
体は重度の障害を持ち、今では笑うこともほとんど無くなり、体を自分の思うように自由自在に動かすことができなくなりました。あんなに大笑いしてた娘から笑顔が消えました。

それはそれは落ち込みました。自分を責めました。
今では退院して家で過ごしていますが、それまでも長く険しい道のりでした。
だけど、どんなに自分を責めても、今の現状は変わりません。
娘の笑顔を取り戻すために今できること。
それはまず、私たち親が笑顔を取り戻すこと。そこから始めました。

自分が娘の立場だったら?と考えてみました。自分のせいで家族が大変な思いをしている。迷惑をかけている。家族が悲しんでいる。そんな風に感じて欲しくないと思いました。もっと自分のことに希望を持って前向きに生きて欲しいも思いました。

その為にもまず、自分が前向きにならなきゃいけない。
今でも時々落ち込むこともあるし、大変なこともあるけれど、それ以上に娘が生きてくれている、それだけでどれだけパパやママに幸せをもたらせてくれているか、それをしっかり伝えていきたい。

それは本当に子どもの命の危機に直面しないと分からなかった事だと思います。いや、娘が生きていてくれるだけで幸せだと思っていたけど、より一層その気持ちが深く、大きくなったというのが今の気持ちです。

この経験で私が娘に教えてもらった事はたくさんあります。
1つは、娘が生きてくれている、それだけで素晴らしい事だということ。私は以前、娘にはわがままになって欲しくないなーとか、こうであって欲しいなとか、色々思っていました。今は違います。娘が生きてくれている。それだけで感謝だし、とても尊い存在であるということ。

2つ目、信じることの大切さと難しさです。心停止して絶望感の中、娘の生命力をただただ信じる。どんなに厳しい状況の中でも信じる。それはとても難しく、とても大切な事だと思いました。

3つ目、今、一瞬一瞬を精一杯生きる。伝えたい事は後回しにしない。ありきたりな言葉に聞こえるかもしれませんが、明日の命があるかどうかなんて誰にも分かりません。これは、病気がある、無しに限らず、皆んな平等にいつもと同じ明日がくるかどうかなんて分からないのです。私は身を持ってそれを教えられました。だからこそ、今一瞬一瞬を大切に生きていきたい、そう強く思います。

ただ、娘の事を大切に思う気持ちは伝えても伝えても伝えきれないくらいです。だからこそ、私は毎日娘に伝えます。私は娘が大好きです。あなたが生きてくれている、それだけで私はすごく、すごく、幸せなのです。

こんなママの所に生まれてきてくれてありがとう。
ママはあなたを出来る限りの力で幸せにしたい。それを、ママの一生をかけて伝え続けていきます。
そして、今でも信じています。
娘はこれからも色んなことを乗り越えていける力があるということを。

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